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広島地方裁判所 昭和45年(わ)340号 決定 1970年10月19日

少年 R・O(昭二九・三・二七生)

主文

本件を広島家庭裁判所に移送する。

理由

被告人は、少年であるが、

第一、昭和四五年六月一四日午後九時二〇分頃、○○県○○郡○○町大字○○○○○○上流約八〇〇メートル○○川右岸河川敷において、○貞○雄(当時二三年)および○寿○江(当時二〇年)の両名が駐車中の自動車内で話をしているのをみ、右○に対して劣情を催し、強いて同女を姦淫しようと企て、右両名に対し、「わしは○○会の者じやが、わしの土地に無断で入つたのだから一、〇〇〇万円払え」「わしはピストルを持つている。お前らを殺してセメントづけにして海につけてやる」などと申し向けて脅迫し、さらに前記○貞の顔面を殴打するなどして、前記○を畏怖させ、その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫したが、その際同女に対し全治七日間を要する処女膜裂傷の傷害を与え、

第二、○寿○江をして前記被害を警察に届け出るのを断念させるため前記河川敷において被告人の運転する自動車に同女を乗せ、「強姦されたことを人に言うな」などと脅迫し、同日午後九時三〇分頃から同日午後一一時頃までの間、同所から、○○県○○郡○○町○○、同郡○○○町○○などを経て同郡○○町大字○○○○○○附近に至るまで同車を疾走させ、その間同女をして車から脱出することを不可能ならしめ、もつて不法に監禁し、

第三、公安委員会の運転免許を受けないで、同日午後八時頃から同日午後一一時頃までの間、○○郡○○町大字○○の自宅から、同郡○○町、同郡○○○町などを経て同郡○○町大字○○○○○○附近に至る間の道路上において、普通貸物自動車(広島四す二七六〇号)を運転し

たものである。

以上の各事実は、当公判廷において取調べた各証拠によつて認定することができ、法律に照らすと、右第一の所為は刑法第一八一条(第一七七条前段)に、第二の所為は同法第二二〇条第一項に、第三の所為は道路交通法第一一八条第一項第一号、第六四条にそれぞれ該当する。

そこで、被告人に対する処遇について検討するところ、

(一)  本件第一および第二の犯行の態様は、極めて悪質、兇暴で、その結果も甚だ重大であり、第三の犯行は被告人が遵法精神に欠けていることによるものであつて、被告人に対し厳重な刑事処分をもつてのぞむこともあながち不当とは言えない事案である。

(二)  しかも、被告人は朝鮮初級学校中級部二年の頃から学業を怠り、家出することがたび重なり、遂には常習的に窃盗を犯すようになつたため、昭和四二年九月教護施設である広島学園に収容され、以来一年七か月にわたつて同学園で矯正教育を受け昭和四四年三月同学園中学課程を卒業した経歴があり、その後両親の下に帰り父の家業の手伝をするうち本件犯行を犯すに至つたものであつて、その家庭環境のもとでは被告人の保護育成を期待し難い面がある。さらに、被告人は中学生の頃より喫煙をはじめ、異性との性交を経験し、その後飲酒を覚えるなどその生活態度は遊興的・浪費的であり、社会に対する不信感が強く、社会規範に対し敵対的挑戦的で遵法心に著しく欠けるところがあり、また性格的にも冷酷で倫理感に乏しく、被告人の非行性は相当高度なものがあると考えられ、再犯のおそれも十分に認められるので、被告人を施設に収容して矯正教育を施す必要性は大きい。

(三)  しかしながら、他方被告人はいまだ一六歳六月の少年で可塑性に富む年頃であり、被告人の能動的、積極的な性格面を今後正しい方向に導いてゆくことができるならば、将来正常な社会生活に適応することも不可能ではないと考えられるので、今ただちに被告人に対し刑事処分を加え懲役刑を科して刑務所に送るよりも少年院に被告人を収容し、適切な指導を試みることによつてその非行性を除去すると共に正常な社会生活に適応しうる生活訓練を施し、もつて被告人を再度更正の途に進ましめるべく努力するのが相当であると考えられる。

よつて、少年法第五五条により、本件を広島家庭裁判所に移送することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 干場義秋 裁判官 神垣英郎 森下康弘)

参考

(広島家裁 昭四五(少)一二五九号、昭四五・一一・一二決定 報告四号)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

一 昭和四五年六月一四日午後九時二〇分ごろ、○○県○○郡○○町大字○○○○○○上流約八〇〇メートル○○川右岸河川敷において○貞○雄(当二三年)および○寿○江(当二〇年)の両名が駐車中の自動車内で話をしているのをみ、右○に対して劣情を催し、強いて同女を姦淫しようと企て、右両名に対し、「わしは○○会の者じやがわしの土地に無断で入つたのだから一、〇〇〇万円払え」「わしはピストルを持つている、お前らを殺してセメントづけにして海につけてやる」などと申し向けて脅迫し、さらに前記○貞の顔面を殴打するなどして、前記○寿○江を畏怖させ、その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫したが、その際同女に対し全治七日間を要する処女膜裂傷の傷害を与え、

二 前記○寿○江をして前記被害を警察に届け出るのを断念させるため、少年の運転する自動車に乗せ「強姦されたことを人に言うな」などと脅迫し、同日午後九時三〇分ごろから同日午後一一時ごろまでの間、前記河川敷付近から、○○県○○郡○○町○○、同郡○○○町○○などを引き廻し、同女を同車内からして脱出することを不能にし、もつて同女の身体の自由を拘束して不法に監禁し、

三 公安委員会の運転免許の交付を受けないで、昭和四五年六月一四日午後八時ごろから同一一時ごろまでの間、○○県○○郡○○町大字○○の自宅から同郡○○町、○○○町を経て同郡○○町大字○○○○○○附近に至る道路上で普通貸物自動車(広島四す二七六〇号)を運転したものである。

(適条)

一の事実刑法一八一条(一七七条)

二の事実同法二二〇条一項

三の事実道路交通法六四条、一一八条一項一号

(処遇)

審判、調査、鑑別の結果によれば次の事実が認められる。

少年の本件一の非行は、少年一人でアベックの男女に因縁をつけ、執拗に暴力団まがいのせりふをはいて両名を畏怖させた末に女性を姦淫したもので、その手口、態様において少年らしさが全くなく、一方日常生活においてもその年齢の低さにも拘らず大人の社会生活体験(交友関係、職歴、異性との肉体関係、飲酒、喫煙等)を得てこれにたやすく同化し、かつ性格的にも可塑性に乏しく当裁判所が当初少年を少年法二〇条により検察官に送致したのもこれらの点を重視したことによる。ところで今回上記事件について広島地方裁判所より、少年法五五条により当庁に移送があつたので、あらためて、少年の処遇について検討する。

少年の性格に矯正を要する点が多く存することは鑑別結果通知書記載のとおりであるが、その矯正を保護処分でなしうるかという点については次のように考える。すなわち少年には、上記の諸点に加えて、国籍上の劣等感を強く有しており、これを基調に、徐々に社会全般に対し不信感と敵対感を持つに至り、一方自己への非難に対しては攻撃感情をむき出しにするなど、現状においてはもはや矯正教育にのりにくい面が存在することは確かではあるが、その攻撃性の基礎にある上記劣等感を何らかの方法で軽減させることができれば、少年の外に向かつての警戒的身構えも徐々にうすれてゆき、矯正教育の効果も期待できるようになるものと思われる。そして、かかる少年の性格は、長期にわたつて形成された根深いものであつて、これを矯正するためには極めて専門的な知識と長期にわたる時間と少年に対する愛情を必要とするところ、これをなしうるとすれば現在のところ少年院の施設をおいて他にはない。そして、少年の資質および非行性の深度からすれば特別少年院への収容が一応考えられるのであるが、あまり規制が強いとかえつて少年の敵対感をあおり、矯正面においてかえつてマイナスとなりかねないので、現段階においては少年を中等少年院に収容して矯正教育を受けさせるのが相当である。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 寺田幸雄)

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